昭和46年夏。富士急ハイランド。
母29歳 私6歳 弟3歳。
おばあちゃん51歳… え、わたし今、59歳…
ドラッグストアの化粧品コーナーでドルックスを見つけた。
たちまちよみがえる、なつかしい、おばあちゃんの香り。
今も売ってるんですね。
母に連れられて、祖父母の家に泊まりに行く。
おばあちゃんは、鏡台の前に斜めに座り、
顔中にドルックスを塗りたくり、薄いガーゼでゴシゴシ拭き取る。
口回りを拭く時の顔が面白くてケラケラ笑った。
顔面パック(小麦粉と卵、だったかな)もよくしていた。
パック剤の生ぐさいにおいと、
パック中の、おしゃべりが止まった瞬間の違和感を覚えている。
テレビの音が大きく聞こえた。
母も美容が大好きだった。
私が小学生くらいかな、
洗面所に、薄紫のプラスチックドームの美顔器が置いてあり、
ドームに顔を入れて、蒸気をあてる。
タイマーで自動的に切れるんだけど、忙しい母はそれを待てず、
「はいよっちゃん、あとお願いね」と頼まれて、
残り時間、私は顔をドームにイン。
蒸気を吸い込み過ぎると、鼻の奥がツーンとしたっけ。
数年後のある夜のこと。
家を改築中、居間の壁が一部壊されて、天井からブルーシートがぶら下がっていた。
小さな簡易テーブルを置き、母は顔の手入れに余念がない。
私は本を読んでいた。
「この乳液、どんどん吸収する」といいながら、
母は緑色の瓶の乳液をぬりこんでいる。
あれもドルックスだったのかな、覚えていない。
父はたぶん出張中で、
弟と妹は寝ていて、
祖父母ももちろん、眠っていて、
母と二人の、ありふれた夜。
クリスタルキングの「大都会」がブラウン管テレビから聞こえていた。
音楽に強化された思い出は、目を閉じると動画となってまぶたの奥によみがえる。
1979年頃。私は14歳。
思い出の飴玉は時を経て大きく育ち、
何度味わっても小さくならない、
甘じょっぱい、幸せの味。
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