ダージリンママ介護日記

要介護5の実母79歳を介護した娘の日記 その後

こよひ会う人 みな美しき

 

夕方、少しの雷鳴の後、バラバラッと大粒の雨が通り抜けた。

お盆前からの狂暴な暑さにうんざりしていて、

どうせこの雨も湿気を呼ぶだけ、と思っていたのに、

夕飯の買い物に行こうと家を出たら、外気がひんやりしていた。

体半分を玄関に戻して夫に、

「外、涼しいよ!」と言い置いて、歩き出した。

 

 

母を介護していた数年間の、2度目の夏。

あの日も夕方、思いがけない涼気が訪れた。

ベランダに出て涼しさを確認した私は、母を車椅子に乗せて散歩に出た。

川沿いの道をのんびり歩く。

すれ違う人みんなに、涼しいですねえ、少し楽ですねえ、母は今ちょっと落ち着いてい

るんです、と話しかけたいような気持ちで、私はニヤニヤしていたと思う。

何人かとは、微笑みあったかもしれない。

母も気分がよかったのか、優し気な表情をしていた。

ふと、短歌の一節が胸に浮かんだ。

「お母さん、気持ちいいね。こよい逢う人みな美しき、って感じだね」と言ったら、

少しして母が、

「月は?」と言った。

意味がわからなかった。

 

家に戻って、落ち着いてから調べてみた。

「清水へ祇園をよぎる桜月夜 こよひ逢う人みなうつくしき」

与謝野晶子の歌だ。

私は、後半だけをなんとなく覚えていて、

母は全文を知っていたから、月は?と聞いたのだ。

本当に驚いた。

認知はかなり低下していたし、

筋道だった話はほぼできなくなっていた母なのだ。

「さっきの、与謝野晶子の歌なんだね。だからお母さん、月のこと言ったんだね、

私、知らなかったよ、お母さん、さすがあ!」

と大きな声で母に言った。

母の反応はなかったけれど、幸せな夜だった。

かつての母の片鱗を見て、

時々は、以前の母が戻ることがあるのだとわかって、嬉しくて泣いた。

 

お母さん、あの日は涼しくて気持ちよかったね。

 

2007年。

カラオケに興じる、母と私。

ノリノリです。

 

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